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特許訴訟事例

省電力電気機器事件

2017.05.31

1.事件の概要

民事訴訟事件番号
「平成16年(ワ)第6531号特許権損害賠償請求事件(東京地方裁判所)」

この事件は、「省電力電気機器」に関する発明にかかる特許権を有する原告が、被告の製造販売にかかる「テレビの電源装置」が原告の特許発明の技術的範囲に属し、その製造販売行為が原告の特許権を侵害すると主張し、被告に対し、特許法第65条第1項、同法第102条第3項に基づき2億円の補償金及び損害賠償を求め、東京地方裁判所に訴えを提起したものです。これに対し、被告は、被告の製造販売する製品は原告の特許発明の技術的範囲に属さないと主張して争いました。

東京地裁の判決主文は以下のとおりです。
1.原告の請求を棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。
3.本件特許の内容

 

特許請求の範囲の記載
本件発明は「省電力電気機器」に関し(特許第3196157号)、特許請求の範囲は以下のとおりです。

 

【請求項1】商用電源と、当該商用電源を整流する第1の整流回路と、前記商用電源に接続されたトランスと、前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器と、当該パルス発生器の出力に応じて前記トランスへの電流供給をスイッチングする双方向性の開閉素子と、前記トランスの二次側出力を整流する第2の整流回路とを具え、前記商用電源と第1の整流回路との間に直列にコンデンサを設けると共に、前記第2の整流回路の下流側に電荷蓄積素子を設け、前記開閉素子がオフの間、前記電荷蓄積素子に蓄積した電荷を出力することを特徴とする電源装置。
【請求項2】請求項1に記載の電源装置において、前記開閉素子が1の回路で構成されていることを特徴とする電源装置。
【請求項3】請求項1または請求項2に記載の電源装置が更に、前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え、前記制御回路が前記負荷電流検出回路で検出した負荷電流に応じて前記開閉素子を間欠的に開閉させるように制御することを特徴とする電源装置。

 

本件請求事件における主な争点
争点1.「商用電源」(以下、構成要件1Aという)の意義について
争点2.「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」(以下、構成要件1Dという)の意義について
争点3.「前記電源装置の負荷電流を検出する負荷電流検出回路を具え」(以下、構成要件3Bという)の意義について
争点4.被告の各製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか

 

4.裁判所の判断
(1)争点1について(「商用電源」の意義)
甲2によれば、本件明細書の16欄の【符号の説明】欄に「101商用電源入力部」と記載されていることが認められ、かかる記載に照らせば、構成要件1Aの「商用電源」は、電源取り入れ口を指すものと解するのが相当である。

(2)争点2について(「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」の意義について)
構成要件1Dの「パルス発生器」については、被告は、自らパルスを発生するものを指すと主張する。

しかし、甲41ないし44によれば、「パルス発生器」という用語の一般的な意味は、当該機構のみで自らパルスを発生するものに限られないというべきである。

また、「パルス発生器」には、「パルスを発生」という点から見て、大別して「1つのパルスを発生するもの」と「一定の周期のパルスを発生するもの」とがあり、特許請求の範囲の記載だけではその内容が一義的に明らかではない。

さらに、構成要件1Dの「間欠的に動作する」については、「間欠」の語は、「一定時間を隔てて起こったりやんだりすること」を指すものであるが、構成要件1Dにおいて、「間欠的に動作する」と「パルス発生器」との関係及び「前記第1の整流回路の出力を受けて」と「間欠的に動作するパルス発生器」との関係は、特許請求の範囲の記載だけでは一義的に明らかではないというべきである。

本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】の項の記載によれば、本件特許発明1は、待機中の電気機器の電源を一次側で間欠通電(間欠開閉と間欠発振の双方を含む)させることによって、最小限の電力供給状態を安定して作り出し、待機電力を低減させるものであり、間欠通電のための制御回路を電源の一次側に設置するものである(本件公報4欄9行目から28行目)。

また、本件特許発明1の構成は、一次側に電源回路を開閉する素子を配置し、その制御用の電源として一次側の電源を使用するものであるとされている(本件公報4欄33行目から36行目)。

したがって、これらの記載から、本件明細書には、一次側で間欠通電をさせるための制御回路を設け、この制御回路は一次側の電源を使用する構成の発明が開示されていることが導かれる。
本件特許発明の各実施例の回路構造とその動作・作用は異なっていて、本件特許発明1の実施例たり得るかどうか疑問のあるものも含まれている。

一方、原告は、平成13年3月13日付け意見書において、「請求項15に記載の内容は、図3及び図6に開示されております。」と記載している。

このような出願経過にかんがみれば、原告が実施例であることを明示した実施例3及び6のみが、本件特許発明1の内容を開示しているものとして解釈すべきであるから、実施例3及び6に開示された内容と整合するように本件特許発明1の技術的意味を解釈するのが、合理的というべきである。

ところで、「間欠的に動作するパルス発生器」の通常の技術的意味は、「1つのパルスを発生するもの」あるいは「一定の周期のパルスを発生するもの」を間欠的に動作させているものというべきであるところ、前記のとおり、実施例3及び6における「パルス発生器」に相当する部分は、連続的に動作しているものである。

したがって、構成要件1D「間欠的に動作するパルス発生器」を通常の意義どおり、「パルス発生器が間欠的に動作している」と解釈することは、実施例3及び6に記載された技術内容に照らすと困難といわざるを得ない。

また、構成要件1D「間欠的に動作するパルス発生器」を単なる「パルス発生器」と解することは、あえて設けられた「間欠的に動作する」との文言を有名無実化するものであって相当ではない。

そこで、本件明細書の記載をさらに検討すると、一次側で間欠通電をさせるための制御回路を設け、この制御回路は一次側の電源を使用する構成の発明が開示されていること、実施例3及び6においても、一次側を間欠通電させることによって消費電力の低減を図っていることに照らせば、構成要件1D「間欠的に動作するパルス発生器」については、これを「一次側を間欠的に動作する(させる)パルス発生器」と解するのが相当である。

実際、このように解すれば、本件明細書の記載や他の実施例とも整合的に構成要件1Dを理解することが可能である。

また、本件特許発明1に対応する平成12年6月19日付けの手続補正書における請求項11では、「トランスの一次側に電流供給する交流電流ラインを開閉する双方向性の開閉素子」と「前記開閉素子の動作を制御する制御回路」について、「制御回路が開閉素子を間欠的に開閉させるよう制御」するのであるから、制御回路が一次側回路を間欠動作させることが前提となっていると解されるところ、前記の構成要件解釈は、出願過程において原告が開示していた技術内容とも整合するものである。

次に、構成要件1D「第1の整流回路の出力を受けて」の意義についてであるが、本件明細書には、一次側で間欠通電をさせるための制御回路を設け、この制御回路は一次側の電源を使用する構成の発明が開示されている。

そして、実施例3において、構成要件1D「パルス発生器」に相当する「シュミットトリガーインバータ205を用いたパルス発生器」は、「全波整流のダイオード301にて整流され、コンデンサ203に蓄えられた」電圧によって動作するのであるから、「第1の整流回路の出力を受けて」いる。

また、実施例6においても、構成要件1D「パルス発生器」に相当する「バイナリカウンタ」と「ゲート回路」は、実施例3と同様、「全波整流のダイオード301にて整流され、コンデンサ203に蓄えられた」電圧によって動作するのであるから、「第1の整流回路の出力を受けて」いる。

したがって、構成要件1D「第1の整流回路の出力を受けて」とは、「パルス発生器が第1の整流回路の出力を受けて動作していること」と解するのが相当である。

そして、このような解釈は、本件当初明細書記載の請求項において、一次側に電源回路開閉の素子を配置し、この素子を間欠開閉・間欠発振させる制御回路やその制御用の電源として一次側を用いる構成が記載されていること、本件特許発明1に対応する平成12年6月19日付け手続補正書における請求項11では、「前記制御回路が少なくとも前記電源装置がスタンバイ状態にあるか、あるいは少なくとも前記電源装置に生じる負荷が小さい場合に、前記開閉素子を間欠的に開閉させるよう制御」するのであるから一次側回路から電源の供給を受けることが前提となっていること等の出願経過に照らしても、採用できるものである。

原告が手続補正書において、実施例3及び実施例6が本件特許発明1の開示するものであると明示したことに照らせば、実施例3及び6の内容を基に、本件特許発明1の技術的範囲を確定することが相当というべきである。

したがって、構成要件1D「前記第1の整流回路の出力を受けて間欠的に動作するパルス発生器」とは、「第1の整流回路の出力を受けて動作し、回路の一次側を間欠動作させるパルス発生器」であるものと解するのが相当である。

(3)争点4について(争点4.被告の各製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか)

弁論の全趣旨を総合すれば、被告製品の回路構成と動作は、次のとおりと認められる。

被告各製品における電源装置は、待機モード時において、二次側回路中のP点の電位(コンデンサC12に蓄積された電荷量)を観測しており、P点の電位がしきい値より低いときは、二次側回路中のPC1のフォトカプラがオフとなり、これがPC1の受光素子を通して一次側回路に伝達されて、トランスT3の一次側を導通状態に導く結果、一次側から二次側への電力供給が開始される。

一方、P点の電位がしきい値より高いときは、二次側回路中PC1のフォトカプラがオンになり、これがPC1の受光素子を通して一次側に伝達されて、トランスT3の一次側を非導通状態に導く結果、一次側から二次側への電力供給が停止される。

前記記載の事実によれば、被告各製品における電源装置の動作は、二次回路中におけるP点の電位と基準電位(しきい値)との比較結果に基づいて、フォトカプラPC1をオン・オフ切替制御するものであって、いわゆるコンパレータを構成する制御回路である。

すなわち、被告各製品は、二次側の電圧をコンパレータを用いて検出しており、その結果に応じてパルスを発生し、一次側の通電・非通電を決定する構成である。

そうすると、本件特許発明1の「パルス発生器」に相当するのは「二次側のコンパレータ」であって、この「二次側のコンパレータ」は、二次側から電源の供給を受けているものであるから、被告各製品は、構成要件1?D「第1の整流回路の出力を受けて」を充足しないというべきである。

以上のとおり、被告各製品は、構成要件1Dを充足しないことから、本件特許発明1の技術的範囲に属さないものである。

そして、本件特許発明2及び3は、その構成要件の一部として本件特許発明1の内容を引用するものであることから、被告各製品が、本件特許発明2及び3の技術的範囲に属さないことも明らかである。

また、被告各製品は、本件特許発明の技術的範囲に含まれないのであるから、本件出願公開後設定登録前の期間についての補償金請求に理由がないことも明らかである。

 

5.私見
■この判決は、出願から特許に至るまでの出願経過を詳細に検討し、それにより、特許請求の範囲の技術的意義を明確にした上で、被告各製品が本件特許発明の技術的範囲に属さないと判断しています。
特許請求の範囲がそれだけでは技術的意義が必ずしも明確ではない場合、出願から特許になるまでの経過を通じ、出願人が示した意図や特許庁が示した見解を参酌して特許請求の範囲の技術的意義を明らかにする手法は、以前から採用されていたもので、妥当な判断だと思います。

出願経過参酌では、特許請求の範囲の記載を限定して解釈する基準として働きます。

参酌すべき出願経過中の具体的事実について主張立証した被告の戦術が奏功した例でしょう。

■出願経過参酌の典型的な例は、以下のとおりです。
特許出願人は、審査過程で拒絶理由に対応して発明の技術的範囲を限定し、あるいは、発明の特徴を明確にするため、特許請求の範囲や発明の詳細な説明を補正又は釈明する場合があります。

訴訟において特許権者は、自らがした補正(限定)や釈明に反して補正、釈明前の明細書によって解釈される技術的範囲を主張することは許されないというべきでしょう。

なお、出願経過も参酌した上で、出願人が特許請求の範囲から意識的に除外した事項はその特許発明の技術的範囲に属さないという解釈は、意識的除外論といわれています。いずれにせよ、原告は、訴訟を提起する前に、出願から特許になるまでの出願経過を今一度詳細に検討する必要があると思います。